Watchburg Music
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音楽家の思い出


ニューヨークにて最晩年の演奏

第三回
ジム・ホールの思い出

ジャズ・ギタリスト、ジム・ホールは1950年代から活動していたジャズ・ギター界、大御所中の大御所です。
今月、マンハッタンの自宅アパートで亡くなられました。

晩年も精力的に活動していたジム・ホールですが、筆者も今年6月、ニューヨークの老舗ジャズクラブ『ジャズ・スタンダード』にジム・ホールの演奏を聴きに行きました。


公演前には50〜60歳代のジャケット写真をイメージしていたのですが、杖をつきながらステージに現れたジム・ホールは想像とは違って、補助がないと一人では歩けない程でした。
もちろん演奏も最盛期とは違い、やっとのことで、ギターを抱えて弦を押さえているといった感じでした。
2012年の演奏とも大分懸け離れていたので、この一年で相当健康面の衰えがあったのでしょう。

途中ピックを落としてしまったのですが、もちろん自力では拾えない。
見かねた客の一人が拾ってステージまで持って行ったのですが受け取らず、そこは想定の範囲内といった様子で、新しいピックを後ろから取り出す様が印象的でした。


細かいフレーズは弾けないので、限られた音数の中で何が最も重要な音なのかを考えながら演奏しているといった感じでした。
そんな中でも四度のフレーズであったり、ジム・ホールらしさも垣間見られ、80を過ぎてなお現役、その音楽に対する姿勢たるや並大抵のミュージシャンとは一線を画すものがありました。

健康面、演奏面で大きな衰えを感じさせながらも、観客は惜しみない拍手を送っていました。
聴衆に感銘を与えるのは技術のみにあらず、と再考させられる一夜でした。


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