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ミステリーバーグ


不動産屋の不思議な話

第一話
家賃の催促
語り手 30代女性

 これは以前私が事務職員として勤めていた不動産屋での出来事です。その会社は賃貸契約の仲介だけでなくアパートの管理もしていました。みなさん不動産関係と聞くと、営業職が大変というイメージがあると思うのですが、事務職だって楽ではないのです。まずはクレームの処理。近隣住民からの騒音の苦情もありますし、大学生のお酒のトラブル、またゴミ出しのルールを守らない人が一人でもいると、アパートの住人全員に通知しないといけなかったりします。

 それから滞納している家賃の回収、これも事務職の仕事です。ただ振り込みを忘れたという人ならいいのですが、分かっていて踏み倒そうとする人や、強面の人なんかに家賃催促の電話をするのは少し気が引けてしまうものです。家賃を滞納したからといってもすぐに追い出すわけにもいきませんしね。この話はそんな家賃催促の電話を掛けている時に体験した不思議な話です。

 その日も家賃滞納をしていたある中年夫婦に催促の電話をかけたのです。すると予想外なことに、電話に出たのはお婆さんでした。その時は夫婦どちらかのお母さんかなって思って、家賃が滞納されている旨を伝えたんです。すると、「私には賃貸契約のことは分からないから、〇〇(住人の奥さん)が帰ってきたら伝えておきます」と言ったので、本人に伝わるだろうと思って安心しました。アパートの管理会社から言われるより、親から注意される方が効果はあるだろうと感じましたしね。

 ところがしばらく経っても一向に家賃が振り込まれないのです。上司に言われて再度電話をしたところ、今度電話に出たのは奥さんでした。「先日、お母様にもお伝えしたのですが…」と話したら、「え、うちは親と同居なんかしていないし、親はこのアパートに来たことはないですよ」って言うのです。それでは、私が話したお婆さんは一体誰だったのでしょうか。

 私が間違い電話をかけた先の住人の名前が、たまたま奥さんと同じだったのでしょうか。もしくは夫婦が外出中に入り込んでいる人間がいたのでしょうか。それとも電話に出たのはこの世のものではなかったりして。今思い出しても背筋がゾクッとしますね。


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