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ミステリーバーグ


体験者も目撃者もいないのに広まった怖い噂

第七話
夜の日本海
語り手 30代男性

 よく怪談話とかであるのが、「そこに行った人は一人も帰ってこなかったのです…(終)」というオチ。それでは誰がその怪談を語れる経験者や目撃者だったのでしょうか。でも火のないところに煙は立たぬとも言いますし、私ね、子供の頃こんな話をよく聞かされたものです。

 私は日本海側のとある県出身なのですが、亡くなった祖母や、その世代の老人はよくこんなことを言っていました。「夜の浜辺には近づいちゃならねぇ。〇〇(某国)の船が来て、子供をさらっていっちまうんでなぁ」

 もちろん、その人さらいの現場を誰も見たことはありませんし、さらわれた人の体験談もありません。祖母より下の世代、特に学校の先生なんかは、この話をすると酷く怒ったものです。「そんな話、信じてはいけません!〇〇(某国)は非常に豊かで、みんなが平等で幸せに暮らしている楽園のような国ですよ!くだらないデマを信じきっているおじいさん、おばあさんは本当にかわいそう。彼らもまた日帝の被害者なのよ!」などと騒ぎ立てるのです。

 2000年代になってからですよね、本当に〇〇(某国)の工作員が日本海の浜辺で、付近を偶然通りがかった若者を拉致していたのが明るみになったのは。でも不思議なのは、どうして経験者も目撃者もいないのに、私の祖母をはじめ、みんな真実を知っていたのか。案外海辺の人はみんな知っていて、身の危険を恐れて知らないふりをしていただけかも知れません。

 もちろん誘拐自体も怖いですけど、冷静に考えると、拉致の事実をみんな知っているのに、無かったこととして普段通りの生活を続ける、これって凄く怖いことだと思いませんか?


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