知ったかぶりのクラシック
時代を先取るロマン主義者 |
デュセック |
ピアノソナタ28番
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時代を先取るロマン主義者! あなたはヨハン・ラディスラウス・デュセック(1760-1812)というマイナー作曲家を知っていますか? 子供の頃にピアノを習っていた経験のある人ならご存知でしょうが、日本のピアノ教育ではほぼ100%の確率で使われるであろう『ソナチネ・アルバム』という曲集があります。 ソナチネ・アルバムというのは古典時代に作曲されたピアノ作品の中で、あまり高度な演奏技術を必要とせず、尚且つ芸術性が高いという、要するに練習にもってこいの曲を集めた楽譜集です。 この曲を初めて弾いた時、筆者は思わずピアノに向かってこう言いました。
ヨハン・ラディスラウス・デュセックは1760年にボヘミア(現在のチェコ)で音楽一家に生まれます。 デュセックは神童と言われるほど非常に優れたオルガン奏者であり、ボヘミアンの名に相応しく、10代でベルギー、オランダ、ドイツ等の各地へと渡って音楽の仕事を得ていきました。 数いる音楽家の中で、デュセックが何故このような特別な待遇を受けたかというと、それは後のリストを彷彿とさせるように、デュセックもまた絶世の美男子としてもてはやされていたからです。 フランス革命の際にロンドンに逃れ、ハープ演奏家として名高いジャン=バティスト・クルムフォルツの妻と不倫の末の駆け落ち、哀しみに暮れたクルムフォルツはセーヌ川へ身を投げ自殺。 その後、クルムフォルツ夫人をあっさり捨てたデュセックは楽譜出版社経営者のドメンチオ・コッリの娘ソフィアと1972年に結婚し、義父のコッリと共に会社経営に手を出します。 晩年はフランスとプロイセンで過ごし、教育と音楽活動に余生を捧げます。
デュセックの生涯は小説になりそうなほどロマンに満ちあふれていますが、彼の楽曲もまた非常にロマン主義的な作風となっています。 ただデュセックの知名度を考えると、彼の作品が後の大作曲家達に影響を与えたということは考えにくいでしょう。 ロマン主義の先取りという意味ではベートーヴェンの作風と似ている点も非常に多くと言えます。
この《ピアノソナタ28番》はデュセックの晩年に作曲されたもので、非常にロマンティックな響きを含んでおり、『祈り』という副題が付けられています。 デュセックの作品は現代でもピアノ演奏会で弾かれる事はあまり多くありませんが、大胆な半音の音使いや、曲の持つ高揚感は、優雅な貴族の晩餐会でのBGMである古典派の作品とは一線を画す作風となっており、非常に興味深いと言えるでしょう。 この曲が作曲された当時は、丁度ショパンやメンデルスゾーンといったロマン派を代表する作曲家が生まれるくらいの時期です。
それでは聴いて頂きましょう。 |
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