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書籍紹介


アイドルと郷土愛の融合
奇抜さに隠れされた友情・努力・勝利を描く王道の一冊
ブーメランパンツ野郎
群馬アイドル神話 馬セブン

私が初めてブーメランパンツ野郎先生と出会ったのは、確か19歳の夏だったと記憶しています。当時大学生だった私は群馬県高崎市の実家に帰省していました。同じ時期に丁度帰省していた友人の豊田君と短編の自主映画を撮ろうということになって、豊田君がアルバイト先で知り合ったT橋君、それからT橋君の友人と集まることとなりました。 私は初めて会うT橋君とT橋君の友人を驚かせてやろうと思って、前日に突如としてスキンヘッドにして眉毛を全て剃りました。

当日、後に映画「ラーメン食いてぇ!」の舞台となる清華軒という中華料理屋に集合しました。友人の豊田君はスキンヘッドになった私を見て驚きましたが、次の瞬間、私はもっと驚きました。T橋君の連れてきた友人がスキンヘッドで眉毛が無かったのです。偶然にも彼も我々を驚かせるためにスキンヘッドにしていたのです。そう、その彼こそが後にブーメランパンツ野郎と呼ばれる青年だったのです。

映画を撮るにあたって何も考えていなかったので、どんなストーリーで、どんな配役にするかという話をしようとした矢先、ブーメランパンツ野郎先生は確固たる自信を持ってこう言ったのです。

「映画のエンディングはNGシーン集でいこう!!」

その時、豊田君は醤油ラーメンを、T橋君と私は冷やし中華をそれぞれ盛大に吹き出しました。どんな映画を撮るかを考える前に、エンディングから考える、しかも撮ってもいない映画のNGシーン集のコンテが頭に浮かぶという想像力に我々は脱帽しきりでした(映画自体は出演者四人中二人がスキンヘッドという妙なミステリーになりました)。


その後、長い年月が経って、会社員となった私は、ある日豊田君からT橋君と三人で夕食に行こうと誘われました。レストランへ向かう車中でT橋君から、かつて映画を一緒に撮った彼が漫画家デビュー、しかも集英社のジャンプコミックスと聞かされ、非常に驚きました。ただ彼のイカれた発想力なら、きっと面白い作品に違いないと思いました。

さて、その『馬セブン』ですが、最大の特徴は表紙から全く想像ができないブーメランパンツ野郎先生の絵柄です。線の細さと太さを巧みに利用した輪郭で形成される独特の絵柄は、勢いと躍動感に溢れています。特に大ゴマなどはユニークな集中線とも相まって独自の世界観を形成していますが、反面、若い読者や女性には理解されにくい系統ではあります。この点においては、ジャンプコミックスの先輩である荒木飛呂彦先生や漫☆画太郎先生といった作品とのシンパシーが感じられます。

独特の絵柄であるにもかかわらず、馬セブンはコマ割りの工夫などで、非常に漫画として読みやすい作品となっています。またこの独特な絵柄に隠れがちですが、ストーリー自体は山賊が村を襲ったり、迫り来る刺客とのバトルがあったり、日本を裏で動かしている巨大な陰謀が渦巻いていたりと、ギャグを削ぎ落とせば、本当にジャンプらしい王道物語です。特に歌を凶器として扱うアイドルとヒロインが対峙するシーンは、能力者バトル物が好きな方なら、とびきり胸が熱くなるシーンです。

加えて本作はギャグ漫画ですが、あまり下品過ぎない点に好感が持てます。『すごいよマサルさん!!』や『ギャグマンガ日和』同様、徹底したギャグ漫画であるにもかかわらず、幅広い層に読んでもらえるような作りにしてあるのは、さすが集英社、さすがジャンプコミックスと感じざるを得ません。

しかしながら最終話にもある通り、群馬県の圧力によって続編が出せないという状況になってしまっているのが、非常に悔しい所です。私としてはヒロインの絶体絶命のピンチに熊谷の灼熱アイドル、焔ひばりが駆けつけてヒロインを救うシーンを期待していただけに残念です。

ブーメランパンツ野郎先生の今後の活躍、そしていつか馬セブンの第2巻が発売されることを切に願っています。


寄稿
作家・作曲家 清水響

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