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【コード理論大全】質問コーナー


V7が半終止って、間違っていませんか?

第二回
V7は半終止となるのか

Q: コード理論大全のP61ではV7を半終止として扱っていますが、半終止ってVのトライアド以外は認められませんよね?



A: 「Vトライアドの基本形のみが半終止となる」と考えるのは、至極真っ当だと思います。と言うのも、多くの音楽理論書では半終止の楽譜例として、Vトライアドの基本形のみを用いています。私が学生時に使用した教科書である、Tonal Harmony (Kostka, Payne, McGraw-Hill)やFundamentals of Musical Composition (Schoenberg, Belmont Music Publishers)でも半終止の例としてはVトライアドの基本形が使われています。音楽理論に真面目に取り組む学生であれば、半終止はVトライアドの基本形となると考えるのは当然の帰結です。しかし、いずれの教科書にも「ドミナントの終止が半終止である」という事のみが書かれており、「Vの転回系やV7は半終止とならない」とは書かれていません。 「Vトライアドの基本形のみが半終止となる」という誤解について指摘しているのが、Hunter CollegeのPoundie Burstein教授の論文、『半終止と解析上の虚構(原文:The Half Cadence and Related Analytic Fictions)』です。この論文の一部は下記URLから参照する事ができ、該当箇所は98-100頁にあたります。

What is a Cadence?

この論文では、”Although almost all writers do emphasize that a half cadence most normally established by a root-position dominant triad, since the mid-1700s several of them nonetheless have openly accepted the possibility that a half cadence could be established by an inverted V or V7.”として、「多くの著作において、半終止ではVトライアドの基本形の使用が強調されているが、既に18世紀から半終止におけるVの転回系やV7の使用(可能性)が広く受け入れられている」という事が指摘されています。18世紀に発表されたF. W. Marpurg、J. G. Sulzer、William Jones、J. P. Kinberger、J. C. B. Kesselといった作家の複数の著作で Vの転回系やV7の終止系については、既に言及されており、さらに論文内ではHaydn、Mozart、Beethoven、Alberti、Asplmayr、C.P.E. Bach、W. F. Bach、Bontempo、Breval、Gambini、Clement、Dragonetti、Druschetzaky、Eberl、Eyber、Giardiniらの数百に渡る半終止の例を挙げて、 Vトライアドの基本形以外の半終止が認められている事実を証明しています(この執念たるや凄い!)。また”Such Half Cadences are especially ubiquitous in the Romantic Era”として、 Vの転回系やV7の半終止は19世紀には既に定着していると指摘しています。この論文を読めばわかるように、「Vトライアドの基本形のみが半終止となる」というのは誤解であると結論付けられます。

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