【コード理論大全】質問コーナー
Emはどうしてトニックコード扱いなんですか? |
第三回 |
コードの機能はややこしい |
質問者:たかちゃんさん Q: 長調(例としてCメジャースケール)ではFの音が特性音となるため、トニック機能はFを含まないコードとしていました。しかしトニック機能をもつEmコードではトニックのCと短9度の関係になるBが含まれています。 コードはメロディーより下の音域で演奏されることが多いということからも短9度の関係を作るとも言えます。
僕はこのことよりEmはGと構成音が似ている、導音を含んでいることからドミナント機能に属するのではないかと考えました。 それとも、Cmaj7にBの音が含まれているからEmもトニック機能に分類されるのでしょうか。 |
A: ご質問ありがとうございます。 有名な音楽理論書籍でもコード構成音とメロディが短九度音程になるケースを扱っていないことは多いので、b9の振る舞いについては疑問が生じやすい箇所です。またコードファンクションの定義付けも分かりにくい部分があるので、非常に良い質問だと思いました。 まずややこしいのが、『トニック機能を持つコード』=『メロディにスケールのトニックを使用できるコード』という意味ではないという点です。『スケール第一音としてのトニック』と『コードファンクションとしてのトニック』は同じ名前が付いているのですが、これらは『スケール構成音の一つ』と『和音機能の分類』という異なるものを指しています。 メジャーキーの場合では、『トニック機能を持つコード』=『メロディにスケールのサブドミナントを使用できないコード(※)』となります。P51の解説にある通り、メジャースケールの特性音である第四音(=サブドミナント)を使用すると、「音楽が終わった」という安定的な響きを得ることが出来ず、音楽がまだ続くように感じられます。Cメジャーキーのダイアトニックコードを考えると、コード構成音にFを含まないコードは、ドミナントであるGトライアドを除けば全てコード構成音にEを持つコードになります。第四編に書かれている通り、コード構成音にEを持つダイアトニックコードはFをアヴェイラブルテンションとすることはできないので、『トニック機能を持つコード』=『メロディにスケールのサブドミナントFを使用できないコード(※)』=『メロディからサブドミナントFが除外されるコード(※)』=『コード構成音にFを含まないコード』となります。 (※ただし、コードトーンにFが含まれるFmaj7は除きます) ここまでは、トニックファンクションの定義でもあるので、ご理解頂けるかと思います。問題は質問にもあるように、『スケールの第一音としてのトニック』であるCのEmやEm7上での振る舞いです。第四編にも記載されている通り、トニックであるCはリーディングトーンのBを含むEmやEm7のアヴェイラブルテンションとはなりません。EmやEm7上のメロディにCが含まれていると、調声感を崩してしまいます。これはCmaj7にも当てはまります。Cmaj7はEmやEm7と同様に、コード構成音にBを含むので、Cmaj7はコード構成音にCを含んでいながら、メロディにCを使えないコードとなります(P68-69を参照してください)。 つまりCメジャーキーにおいて、トニック機能を持つコードの定義は『メロディにFを使用できないコード(※)』となり、またトニック機能を持つダイアトニックコードの中でも、メロディにトニックのCを使用できる『C、Am、Am7』と使用できない『Cmaj7、Em、Em7』二つのグループに分けられるということです(余談ですが、これと同様にサブドミナント機能を持つダイアトニックコードでも、メロディにFを使用できる『F、Dm、Dm7』と『Fmaj7』の二つに分けられます)。別の言い方をすると、トニック機能を持つコードと、コードやメロディにスケールの第一音であるトニックが含まれるかどうかは無関係で、トニック機能を持つかどうかを決定付けるのはスケールの第四音であるサブドミナントの有無です。 (※ただし、コードトーンにFが含まれるFmaj7は除きます) また質問にあるように、EmとGは確かに構成音が似ていますが、Fをメロディに使用できないEmはトニックファンクションに、Fをメロディに使用できるGはドミナントファンクションにそれぞれ分類されるということになります。 コードの機能にはそれぞれルールがあり、構成音が似ているコードが必ずしも同じ機能のコードになるというわけではありません。例えばCメジャーキー上でF-7とBb7はコード構成音が大分異なりますが、どちらもAbを含むエオリアンモーダルインターチェンジコードであるので、分類上はサブドミナントマイナーとなります(参考文献:Jazz Improvisation for Guitar, A Harmonic Approach by Garrison Fewell)。
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