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【コード理論大全】質問コーナー


目的語はどれですか?

第十回
IV-7のコードスケール

Q: 第十編コードスケールの内容に対しての質問です。P261には「Ⅳmaj7からモーダルインターチェンジコードのⅣminor7に進行するパターンの際に、モーダルインターチェンジコードとの自然な繋がりを作るためにリディアンではなくあえてイオニアンが使われることがある。」とあるのですが私は、Fm7の構成音上イオニアンではなくエオリアンが当てはまると思います。〝あえてイオニアンを使う″というのはどういう意図があるのでしょうか?またP269の図II-1cのAはS4ではなくS♭4ではないのでしょうか?お忙しいところ大変申し訳ございませんが、ご回答の程よろしくお願い致します。



貴重なご意見、ご質問ありがとうございます。筆者として分かりやすい文章を心がけているつもりですが、伝わりづらい点があり大変申し訳ございません。ご質問に関しては、以下のよう回答をさせていただきます。

最初の質問に関してですが、まずは以下の二つの文章を比べてみてください。

A.「害虫を駆除する際、ペットを飼っている場合には、ホウ酸団子ではなく粘着テープが使用されます」
B.「害虫を駆除する際、ペットを飼っている場合には、通常の首輪ではなく誤飲防止マスクの付いた首輪が使用されます」

どちらも器具を使用する対象となる目的格が省略されていますが、粘着テープを使用する対象は『害虫』であり、『誤飲防止マスクの付いた首輪』を使用する対象はペットということが文章から読み取れると思います。例えば英語などのメジャーなゲルマン諸語では、肯定文において主格を省略することができず、また他動詞を使う際には目的語や補語を省略することはできないといった文法上の制約がありますが、日本語の場合、上述の文章のように自明であるならば主語や目的語を含む文節を省略できるという特徴があります。

P261ではダイアトニックコードのコードスケールに対して解説をしており、図I-1iでIVmaj7に対しては通常リディアンが使われているということが示されているので、「リディアンの代わりに」という言葉が使われた時点で、「IVmaj7に対して」ということは自明であると考え、こちらの文章では省略をしています。分かりづらいようでしたら「自然な繋がりを作るためにリディアンではなく」を、「自然な繋がりを作るために、IVmaj7に対してはリディアンではなく」と置き換えてみてください。

補足ですが、このようなIVからIVmやIVmaj7からIVm7への進行は、EaglesのDesperado、Gerald Marks&Seymour SimonsのAll Of Me、Toots ThielemansのBluesetteといった曲に現れます。またIVmaj7に対してリディアンではなくイオニアンがコードスケールとして使われている例は、Bluesetteに含まれており、こちらはリットーミュージック発行のJazz Standard Bibleの第一巻に載っているので、是非参考にしてみてください。

ちなみにIVm7に対しては、これら三曲全てでエオリアンではなく、ドリアンがコードスケールとして用いられています。確かにIVm7をフリジアンモーダルインターチェンジとして捉えると、IVm7に対してのコードスケールをエオリアンと考えることはできますが、IVm7に対してはマイナー(エオリアン)モーダルインターチェンジから派生するドリアンが、現代人の耳には馴染んでおり、より一般的であるようです。

二つ目の質問の図II-1cですが、S4のSはスケールを意味し、コード構成音でもアヴェイラブルテンションでもないということを示します。4はスケールの第一音との音程が完全四度ということを示しています。例えばP259の図I-1bやP260の図I-1eなどと同じ表記です。S♭4という表記は殆ど使われることはないかと思いますが、スケールと第一音との音程が減四度の場合の表記です。私の記憶にはありませんが、理論書によってはオクタトニックスケールなど構成音の多いスケールの表記等で使われているかも知れません。

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