Watchburg Music
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音楽紹介


国内入手超困難
ドゥームの枠を飛び越えたハードロックの超名盤
Trouble
Manic Frustration

1980年代初期、デビューしたてのTroubleはドゥームメタル(何だか遅くて暗い雰囲気を持つスタイルのヘヴィメタル)の雄として知られるように、非常にダークな雰囲気が前面に押し出されていた。 死や宗教を連想させるテーマに加え、 緩急のついたプログレッシブロック風の楽曲構成、またヴォーカルであるEric Wagnerの歌唱スタイルもRob Halford系ともとれるハイトーンのシャウトであり、Black SabbathとJudas Priestの影響が随所に垣間見ることができる。

1989年にMetal BladeからDef American Recordsに移籍して2作目となった本作は、ダークな雰囲気は残しつつも、複雑な楽曲構成は廃止し、70年代ハードロックのようなストレートにリフと歌で勝負している。ザクザクと斬りこむギターリフにハイトーンヴォイスが被さるスタイルは正に王道。少しマニアックな音楽性を持っている過去作と違い、Manic Frustrationは一般のロックファン、ハードロックファンにもアピールできる作風と言えるだろう。

ギターサウンド自体は90年代の現代的な音にもかかわらず、リフや楽曲はどことなく60〜70年代風のレトロな雰囲気が漂っている。次作のPlastic Green HeadではThe MonkeysやThe Beatlesのカバーを行っているように狙いは明らかで、このレトロ+ヘヴィという1990年代後半以降のハードロック界で定着したスタイルの先駆けとしても非常に重要な一枚と言えよう。この頃の楽曲は阿片や幻覚といったドラッグによるトリップや統合失調症状をテーマにしたものが多く、ここにもThe BeatlesやCreamといったサイケデリックロックの影響が如実に表れている。

Manic FrustrationはレコードのA面、B面のように前半と後半に分けられる構成となっているのが特徴である。前半はCome Touch The SkyやThe Sleeperのようにアップテンポのギターリフを主体とした勢いのある楽曲揃っている。そして5曲目はTroubleの楽曲の中で最も意外なサウンドを聴かせるRain(サザンロック、アメリカンフォークにも聞こえるようなアコースティックの落ち着いた楽曲)で前半は幕を閉じる。

Rain終了後にやや長いポーズがあり、 Tragedy Manから後半がスタートする。後半はバンドの代表曲でもあるMemory’s GardenやMr. Whiteなどウェットでメランコリックかつヘヴィな楽曲が含まれており、こういった楽曲は初期のTroubleのアルバムではなかなか聴くことのできなかったサウンドである。加えて、シャウトだけではなくミドルヴォイスを用いたEric Wagnerの歌唱表現の広がりが楽曲の完成度を更に高めている。またMr. Whiteは日本でも非常に人気の高いSpiritual Beggarsによってもカバーされているので、このアルバムが後続のバンドに与えた影響は非常に大きいことが窺える。

Memory's Garden動画はこちら (Youtubeに移動)

ここ日本において、Troubleというバンドの知名度は決して高いとは言えないだろう。確かに初期数作は聴く人を選ぶマニアックなサウンドかも知れないが、Manic Frustrationはドゥームメタルの枠を飛び越えた、普遍的なロックサウンドを聴かせる名盤なので、もし運良く中古CDショップで輸入盤を見つけたら是非手に取ってほしい。恐らくプレミア価格で取引されているので、5,000〜10,000円くらいだろうと思われるが…。


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